Photo by Piotr Cichosz on Unsplash アメリカに遅れること丸二年、ようやく日本でもAIスピーカの市場投入が始まった。 しかし「Google Homeでハードロックを試す」や「Amazon Echo Dotでハードロックを試す」で書いたように、音楽用デバイスとしての Google Home は音質が劣悪、Amazon Echo Dot は選曲能力が余りにも低く、マニアックな満足度を満たすレベルには程遠い状態であった。 では AIスピーカの先進国、アメリカではどのような使い方をされているのだろうか。既に Amazon Echo だけで1,000万台以上も売れているので、大いに参考になると思われる。 ここでは、ギーク系ニュースサイト "Chatbots Magazine" がアメリカのAIスピーカ・ユーザーを対象に行った調査の結果を見てみたい。 2017年11月22日発表のデータなので、12月時点では恐らく最新のものだろう。 まず一日に何回 AIスピーカを使用するかという質問に対しては、複数回と回答した人が57%、一回の人が17%となっている。 実に4分の3の人たちが一日に一回以上は使用していることになる。 また AIスピーカを何のために使っているかとの問いでは、トップの答えが「音楽」、ついで「天気」「情報検索」との順になった。 興味深いのは、日本で鳴り物入りとなっている「ホーム・オートメーション」が最下位になっている点だ。スポーツのスコア確認やゲームにすら負けている状態である。 この調査では、音楽のためにAIスピーカを使っている人の63%が、一日に複数回聴いていることも判明している。 おそらくラジオを流すような感覚で、気軽に音楽を楽しんでいるのだろう。 アメリカのAIスピーカのシェアは、Amazon Echo が 70% と圧倒的な数字を押さえているため、音質もそこそこ担保されているはずである。 要するに、私のマニアックな評価とは裏腹に、アメリカでの AIスピーカのキラー・コンテンツは「音楽」であることが示されているわけだ。 さらに日本でも、11月17日に富士経済研究所が発表した「住宅分野、業務分野、エネルギー分野向け AI搭載機器、AI活用サービスの国内市場調査」によると、特に音楽関係についてはこのように結論付けられている。 オーディオ機器としては、これまでスマートフォンとアクティブスピーカーをワイヤレス接続して音楽鑑賞に利用していたユーザーからの切り替えも進むとみられる。 折しも「アップルの AIスピーカ発売は2018年に延期」との報道が流れてからちょうど一か月後の12月12日、アップルによるShazamの買収が確認された。 恐らくアップルはこの買収の結果を最大限に活用して、Google Home や Amazon Echo Dot 以上に「音楽」へフォーカスした製品をラウンチしてくるのではないか。 ここまでは消費者サイドからの観点であるが、次に事業者、特にメーカーの視点から考えてみたい。参考資料は「新興テクノロジーのハイプ・サイクル」である。 ハイプ・サイクルは、新興テクノロジーに対する期待度が時間の経過によってどのように変化していくかを表したもので、1995年から毎年夏にガートナーが発表している。 ハイプ・サイクルの基本的なコンセプトによれば、新興テクノロジーに対する期待度は短期間で一気に高まり、その後過大な期待は失望に変わって一転、暴落する。この幻滅期を乗り越えることができたテクノロジーが、実態を伴ったニーズに支えられて、回復し安定的に成長するとされている。 2017年度の「新興テクノロジーのハイプ・サイクル」の特徴の一つは、AIに関する様々なテクノロジーがマッピングされているところにある。
特に Connected Home や Deep Learning、Machine Learning といったAIスピーカに直結したテクノロジーが、いま正に過大な期待のピークにあると考えられている。 ところが、残念ながら Google Home も Amazon Echo も、先行しているアメリカにおいてさえ、こうした期待と乖離した使われ方になっているのが現状である。 カジュアルに「音楽」を聴くデバイスとしては一定の位置を得ているが、それ以外の用途、特に「ホーム・オートメーション」のコントローラとしては散々な有様だ。 これは、早くもハイプ・サイクル上の期待度が急速に萎む兆候が現れていると見るべきだろう。 そして過大なピークから下落した後、萎んだままで終わるのか、ハイプ・サイクルの回復期・成長期に乗ることができるのかは、バズワードのバブルに振り回されることなく、堅実な利用シーンを想定したAIスピーカ対応機器の品ぞろえを充実させることにかかっていると思われる。 翻って、いまやすっかり元気を失ってしまった日本の家電や自動車などのメーカーにとっても、これから半年くらいの間が最後の起死回生の機会になるのではないか。 AIスピーカ対応というプロダクトアウトでありながら、消費者視点での利用シーンを充足させる製品やサービスを短期間で企画・開発しなければならない、非常に難しい局面に私たちは立たされている。 AIスピーカも、このままでは「ちょっと賢いラジオ」くらいで終わってしまうぞ。
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