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8月12日、米ヴァージニア州シャーロッツヴィルに白人優越主義者、ネオナチ、KKK、オルトライトなどあらゆるタイプのレイシストが集結し、これに反対する多くの市民がカウンターとして声を上げた。 この市民の列にレイシストが猛スピードの車両で突入、32才の女性が死亡したほか、多数の人々が負傷する事態となった。 正にヘイトクライムと呼ぶしかない。
車両突入の瞬間(5:35前後、閲覧注意)
さらに事態の悪化に拍車をかけたのが、米大統領トランプだった。 ヘイトクライム直後の会見で「あらゆる側」との表現を使い、あたかもレイシストとカウンターの双方に非があるかのような発言を行ったのである。 全米の広範な人々から非難を受けた結果、14日にKKKとネオナチを名指しで非難はしたものの、翌日15日には掌を返すかの如く、再び「双方に非がある」と明言。 もはやレイシストがホワイトハウスを牛耳っていることを自ら認めるような形になった。 ここに至っては、さすがに産業界や与党共和党、さらには米軍トップからさえも激しい非難を受ける状況となる。 日本では、こうした様々な声が断片的に伝えられているだけなので、ここでは米国の各界それぞれの反応をまとめてみたい。
エンターテイメント業界
とりわけ反応が早かったのが、エンターテイメント業界である。 多くのロック・ミュージシャン達の動きは、ロッキンオン誌にまとめられているので、ぜひ参照いただきたい。 特にトランプ就任時から “No Trump. No KKK. No Fascist USA.” と激しく政権と対峙してきたグリーン・デイは、即座に “Troubled Time” という曲をリリースし今回の事態を非難。 ビリー・ジョー・アームストロングは「俺は何よりもレイシズムが嫌いだ。ナチのクソ野郎」とFacebookでメッセージを残している。 Green Day - Troubled Times from Rev Rad on Vimeo. ハリウッドの関係者の多くも非難の声明を発表。特にアーノルド・シュワルツェネッガーは、ネオナチとトランプを激しい言葉で糾弾する動画をリリースしている。
ジェニファー・ローレンスは、ヘイトデモに参加したレイシストの人定に繋がる身元情報の提供を呼びかけた。 さらに非難はスポーツ界にも広がり、14日には地元シャーロッツヴィル出身のNFL選手であるクリス・ロングとカイル・ロングの兄弟が「私たちは正しいことを続けることができる」との声明を発表。 さらにプロバスケットボールNBAのスター選手であるケビン・デュラントは、ホワイトハウス表敬訪問を拒否することを表明した。
ハイテク業界
シリコンバレーを拠点とするネット系のハイテク業界も素早い反応を示した。 14日にはホスティング・サービスのGoddayがネオナチ系サイト「デイリー・ストーマー」の登録を抹消。「デイリー・ストーマー」はGoogleのサービスへ移行したが、その後数時間でGoogleからも追放されている。 ソーシャル・メディアのRedditとFacebookもヘイトグループを直ちに閉鎖。 Facebookは閉鎖したグループのリストを公開している。 さらにFacebookのCEO マーク・ザッカバーグ氏は16日、ヘイトスピーチを全面的に追放する方針を明らかにした。 TwitterはGoddayやGoogleに追随し、ネオナチ系の「デイリー・ストーマー」に関連するアカウントを凍結したことを発表している。 さらにオンライン予約システムの大手Airbnbは、白人優越主義者による予約を拒否。 Spotifyは、ストリーミングサービスからヘイト関連の楽曲を削除し、27のヘイトグループを追放している。 また小口決済のPayPalは、オルトライトのリーダーであるリチャード・スペンサーをはじめ、ヘイトグループのアカウントを凍結し、サービス利用の拒否を開始した。(なおPayPalのCEOは、シリコンバレー系では珍しく、トランプ支持者として知られていた。) アップルのCEO ティム・クック氏は、全従業員に向けて人種差別に反対する旨のメールを配信し、また反差別団体に巨額の寄付を行うことを明らかにしている。
産業界
ヘイトクライムやトランプ政権に対する非難は、シリコンバレー系企業だけにとどまらず、トランプの足元の製造業諮問委員会を構成する企業にも波及した。 まず14日、製薬大手メルクのCEOで、自らもアフリカ系市民であるケネス・フレーザー氏が、事件に対するトランプの曖昧な態度を理由に辞任。 続いて半導体大手のインテルCEO ブライアン・クルザニッチ氏とスポーツ用品大手のアンダーアーマー CEO ケビン・プランク氏が辞任した。 さらに15日には、労働団体の米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)と米製造業提携協会(AAM)のトップが相次いで製造業諮問委員会から辞任している。 この時点で、辞任した彼らを「スタンドプレイヤー」と揶揄していたトランプだが、16日にはゼネラル・エレクトリック会長のジェフ・イメルト氏、日曜雑貨大手ジョンソン・アンド・ジョンソン、産業材大手スリーエム、重電大手ユナイテッド・テクノロジー、食品大手キャンベル・スープのCEO達が相次いで製造業諮問委員会を辞任。 さらに戦略・政策諮問委員会からはIBMのCEO バージニア・ロメッティ氏が辞任し、遂にトランプは戦略・政策諮問委員会と製造業諮問委員会の双方とも解散せざるを得ない状況に追い込まれた。
政界
当然ではあるが、地元ヴァージニア州知事は、激烈な言葉でレイシストを非難している。
また事件を受けてツイートされたオバマ前大統領のコメントは、ツイッター史上最大の360万以上もの「いいね」が付けられた。 トランプの「双方に非がある」との発言に対する批判は共和党にも広がり、元大統領のブッシュ父子も「あらゆる形での人種差別を拒む」と声明を発表している。 さらには海軍ジョン・リチャードソン作戦部長、海兵隊ロバート・ネラー総司令官、陸軍マーク・ミリー参謀総長ら、米軍幹部がそろって白人優越主義グループを非難する事態に至った。
国際社会
国際社会も黙ってはいなかった。 国連人権高等弁務官事務所は16日、米国でのレイシズムに対する懸念の声明を発表している。 同盟国の首脳たちも沈黙していない。 独メルケル首相は早くも14日に「シャーロッツヴィルの事態は、レイシストによる極悪なもの」と非難。 続けて英メイ首相も「双方が非ではない」とトランプをストレートに批判している。
翻って日本の状況はどうだろうか。
政治家たちからは米英独のようなレイシズムやヘイトクライムへの非難はおろか、何等かの関心を示した形跡すら見えてこない。 メディアの態度も、総じてヘイトクライムに対しては相変わらず「どっちもどっち」といった論調で、これではまるでトランプと同じではないか。 また本国ではヘイト排除に取り組み始めたFacebook、Twitter、Googleでさえ、日本法人においては何ら改善が見られず、未だにヘイトコンテンツを放置したままだ。 そして街の書店には目を覆わんばかりのヘイトに満ちた書物が大量に平積みされている。 最悪の事件が起きたアメリカと比べても、日本は何周も遅れていると言わざるを得ない。 そして日本の市民社会は、この状況を絶対に容認してはならない。
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