はじめにお断りしておくが、「採用選考を受ける」側ではなく「採用選考を実施する」側に対する注意事項なので、よろしくお願いします。
さて今年も経団連加盟企業の2017年度採用選考が6月1日に解禁になった。各メディアの報道によると久しぶりの売り手市場で、しかも短期決戦であるため、各社の人事は大忙しの真っ最中であろう。 さらに現場に裁量を持たせたライン人事の導入が進んだこともあり、人事部門だけでなく、各事業部門からも採用選考に参画しているケースが多いと思われる。 ここで注意いただきたいのは、採用選考で絶対に守らなくてはいけない基準があることだ。 これは単にマナーやコンプライアンスの話ではなく、明確に法令で定められているので、違反した場合「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則が待っている。 これら採用選考の基本的な考え方については、厚生労働省が明確に打ち出している。
要は本人の適性や能力に関係がない事柄で選考を決定してはいけないということだ。 なぜなら、こうした事柄で判断するのは就職差別につながるからである。 さらに厚生労働省では、選考で配慮すべき事柄について具体的に列挙している。
こうした事柄に留意するため、選考面接で訊いてはいけない具体的な質問例を、大阪労働局や熊本労働局が理由と共に明示しているので、参考にしていただきたい。 例えば「あなたのお父さんやお母さんの出身地はどこですか」のような本籍に関わる質問は、歴史的に不当な差別を受けてきた同和関係の方や在日韓国・朝鮮人の方に不安を抱かせ、就職差別として彼ら、彼女らを排除してしまうことになる。 また「あなたのお父さんはどこの会社に勤めていますか」「あなたの住んでいる家は一戸建てですか」といった家族構成や資産に関する質問も、本人の適正や能力と何の関係もないばかりか、選考に当たって意味のない主観的予断と偏見を与えてしまう。 思想・信条、宗教、尊敬する人物、支持政党に関する質問も、憲法で保障されている個人の自由権に抵触するので厳禁である。 これは職業安定法違反だけでなく、日本国憲法違反。学生運動や労働組合に関する考えを訊くことは当然禁じられているし、「尊敬する人物」「将来、どんな人になりたいか」「どんな本を愛読しているか」といった質問も、形を変えただけの禁止事項なので、この辺りは十分理解しておきたい。 「結婚、出産しても働き続けられますか」といった男女雇用機会均等法に抵触する質問も当然厳禁である。 ではこうした公正な採用選考が、現在どこまで徹底されているのだろうか。 2016年に日本労働組合総連合会が加盟組合を対象に調査を行ったところ、いまだに一割近くの企業で「本籍地・出生地」や「家族構成・家族の職業や収入」に関する質問が行われていることが明らかになっている。 さらに男女雇用機会均等法の理解については、「未婚・既婚や結婚の予定」を質問する企業が一割以上。 女性排除につながる「残業や休日出勤ができるか」「転勤できるか」という質問は実に四割もの企業で行われており、惨々たる有様だ。 冒頭にも書いたが、近年は採用選考に当たって人事だけでなく多くの部門が関与するようになっている。 選考にあたっての注意事項に関しては、人事系のコンサルティングファームからトレーニング・プログラムが提供されているので、こうしたプログラムを活用して関係者全員に対する研修を実施するのも手であろう。 そして何よりまず企業人全員の人権意識向上をお願いしたい。 それが公正な社会を作り、また自社の事業活性化にも繋がるはずだ。
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