久保田直己 不撤不散
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ヘイトの挙句の自爆訴訟

2/11/2019

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Photo by Helloquence on Unsplash

2019年3月、ツイッターで「ヘイトの先頭に立っていた」と指摘されていた「凪論」なる人物が名誉毀損の民事訴訟を起こしたが、東京高裁は2019年9月、その主張をすべて退ける判決を下した。
東京高裁の判決は「凪論」の目論見に反し、ヘイトスピーチ解消法(判決内では「差別的言動解消法」)に基づいて、原告である「凪論」のヘイトスピーチを指弾する画期的な内容となってしまった。
最高裁へ上告する2週間の期限が過ぎ判決が確定したため、このほど入手した判決文に沿って詳細に紹介していきたい。
なお個人情報に配慮し、「凪論」を含め関係者の本人特定につながる情報には可能な限りマスクをさせていただいている。

1. 訴状の概要

対象となったツイートの内容は次のようなものである。
あろうことかaaaのbbbの職員、「凪論」ことccc某がヘイトの先頭に立っていたことが発覚。きっちり社会的責任取ってください。ブログ削除して逃亡程度では落とし前つかんよ。
dddddddd

(注 原文にはそれぞれ、aaa: 地域名、bbb: 職場名、ccc: 「凪論」の実際の姓、dddddddd: ブログのリンク が記載されている。)
要は当ツイートでの「ヘイトの先頭に立っていた」との記述、およびブログのリンクを張り付けた行為が名誉毀損に当たるから損害賠償を払えという告訴である。
なお以下の判決文引用において判りやすくするために、原告である「凪論」を「N」、被告を「H」、上記ブログの持ち主を「B」として記載させていただくこととした。

2. 東京高裁の判断

東京高裁は、以下に引用するように、Nの主張を「すべて理由がないもの」として退けた。
違法性阻却ないし責任阻却事由が認められ、また評価を述べた部分も論評としての域を超えた人身攻撃であるとまでは認められず、違法な侮辱により名誉感情を侵害したとはいえないから、NのHに対する請求はすべて理由がないものと判断する。

3. 判断の理由

東京高裁は上記のような判断に至った理由を、ツイートの内容と趣旨、およびリンク先のブログの内容に大別して列挙している。
ツイートについてはNが「ヘイトの先頭に立っていた」ことを「事実を摘示したもの」と認めた。その根拠は、Bがブログで指摘していたN自身によるブログの内容そのものであった。まさに告訴したら返り討ちに会ったというしかない。
また何より重要なのは、Nのブログの内容について「本邦外出身者を不当に差別し、地域社会から排除することを扇動することにつながりかねない言動として、差別的言動解消法のヘイトスピーチに該当する可能性がある」として、ヘイトスピーチ解消法に基づく判断を下した箇所であろう。
以下、判決文から引用する。
「本件ツイートの趣旨・内容はいかなるものか」

本件ツイートの「ヘイトの先頭に立っていた」との記載は、閲覧者の普通の注意と読み方によれば、Nが率先してヘイトスピーチを行っていたとの事実を指摘していると読むことができる。

そして、そのことは、本件ツイートにリンクして一帯となるB投稿中の「一定の研修を経てもなお差別意識を持つ者」、「N氏がまさにそのような性向の人物である」、「ヘイト暴力の被害者を揶揄する姿勢」であり、N氏は、「ブログで民族差別暴言をも書いています」との記述によって、Nがヘイトスピーチを率先して行っている人物であるとの事実を摘示していることがより明確となる。

すなわち、「ヘイトの先頭に立っていた」という記述は、より具体的な裏付けとなる上記各事実の記載により、証拠等をもって決することができるものとして、事実を摘示したものということができる。
(なお、この点は、上記のとおり摘示する事実が、差別的言動解消法の差別的言動に該当する法的な意味を有する事実であるとしても、異ならない。)
「事実の真実性、又は真実と信じることについて相当の理由があるか」

本件ツイートが公開された前年の平成25年頃より、在特会等によるヘイトスピーチが社会問題となり、新聞等のメディアでも大きく取り上げられていたこと、Nが作成した「凪論」のブログには、「京都朝鮮第一初級学校街宣名誉毀損裁判傍観記」、「西村斉氏の父親=エロ仙人氏という誤りはなぜ発生したか ~在日特権を許さない市民の会と体質が変わらない京都朝鮮学校と原告弁護団~」、「李明博大統領がいわゆる従軍慰安婦問題の解決を要求 ~また始まった韓国の反日カードの時代~」等の記事があり、その中には「彼ら(京都朝鮮学校及びその弁護団のこと)は、在日特権を許さない市民の会などに対する怒りや憎悪の果てに自らもまた同じダークサイドに陥ったと言えよう」との記載があり、また、「日本を憎むことでしかアイデンティティを保つことができない韓国人の気質」との記載もあること、そのような「凪論」の筆者であるNが子どもの人権を護るべきbbbの職員であること、Nの勤務するaaa市bbbやaaa市長に対して、「凪論」の記載などを理由に市会議員であるBから抗議があったこと、以上の事実を認めることができる。
​
そして、上記の認定の「凪論」の記載のうち、ヘイトスピーチの被害者について、在特会などに対する怒りや憎悪の果てに自らもまたダークサイドに陥ったとの記載は、同被害者を揶揄し、貶めている記載であるということが可能であるし、また、「日本を憎むことでしかアイデンティティを保つことができない韓国人の気質」との記載は、本邦外出身者を不当に差別し、地域社会から排除することを扇動することにつながりかねない言動として、差別的言動解消法のヘイトスピーチに該当する可能性があるということができる。

4. ツイートに関する結論
​
前述したように、東京高裁はツイートの「ヘイトの先頭に立っていた」との記載について「真実性があるか、又は真実と信じるについて相当の理由がある」と断じた。
本件ツイートの「ヘイトの先頭に立っていた」との記載は、Nが率先してヘイトスピーチを行っていた事実を摘示するものであるが、上記「凪論」の記載が、ヘイトスピーチに該当する可能性があるということができるから、真実性があるか、又は真実と信じるについて相当の理由がある。

5. Bブログに関する結論

またBによるブログでのNに関する記述も悉く「真実性があるか又は真実と信じるについて相当の理由がある」とされている。
ヘイトスピーチの被害者に対し酷薄な感情しかもっていない事実およびその被害者をブログで貶めている事実を摘示しているが、上記「凪論」の記載が、同被害者を揶揄し、貶めている記載であるということが可能であるから、真実性があるか又は真実と信じるについて相当の理由がある。

Nが一定の研修を経ても差別意識を持ち差別人権侵害問題に対し酷薄な感情しか持てないという事実を摘示しているが、上記「凪論」の記載が、同被害者を揶揄し、貶めている記載であるということが可能であるから、真実性があるか又は真実と信じるについて相当の理由がある。

Nがヘイトスピーチを行う勢力により暴力に遭った被害者を揶揄している事実及びNがヘイトスピーチによる被害者に対して思いを馳せたり気の毒に思ったりすることのない人物であるということが可能であるから、真実性があるか又は真実と信じるについて相当の理由がある。
​
Nが、徳島県教組事務所襲撃事件の被害者を突き放す態度を示している事実、他人の恐怖や苦しみを感じ取れない人物であるという事実及び民族差別を行う人物であるという事実を摘示したものというべきであるが、上記「凪論」の記載が、ヘイトスピーチの被害者を揶揄する記載であるということが可能であり、また、ヘイトスピーチに該当する可能性がある記載もあることから、被害者を突き放すとか、他人の恐怖や苦しみを感じ取れないという記載については、真実性があるか又は真実と信じるについて相当の理由がある。

6. 総合的な結論

以上のように、「凪論」ことNにとって完膚なきまでの敗訴となった。
本件ツイート及びそれにリンクする本件B投稿中の本件各B記述の内容は、名誉侵害の不法行為の違法性ないし責任を欠くものというべきで、NのHに対する損害賠償請求は理由がない。

​なお、侮辱として名誉感情を害するとの主張もするが、上記の認定判断によれば、社会通念上許される限度を超える侮辱行為があったとも認めることもできず、名誉感情の侵害を理由とする不法行為の主張も理由がない。
1 コメント
いちご
4/11/2020 08:50:08

 差別主義者を、明快に一刀両断にした素晴らしい判決!

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