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英語習得について何か書こうと画策していたところ、日本語から英語への変換の難しさを示す絶好のサンプルが飛び込んできた。 大阪・森友学園の籠池理事長による、日本外国特派員協会での記者会見の件である。 この一連の大疑獄について改めてここで詳述はしないが、極めて日本的な事件であり、また記者会見で飛び交った数々の言葉もこの国特有のものであった。 記者会見用に用意された文章は主語と述語が明確で、構文としては英語にし易い体裁だったが、使われていた単語が、ベテランによる逐次通訳ですら途中で何回も停めざるを得ないほど苦労を要するレベルのものであった。 翻訳が比較的スムーズだったものとしては
「事務方」については、全体のコンテクストを掴んでの翻訳だ。 また英語表現は失念してしまったが、「断腸の思い」なる日本語も、良くこなれた英語へ転換されたことに驚愕した記憶がある。 一方、どうもすっきりしなかったのは、籠池氏の口から何度も発せられた「お国」の訳だ。 英語では即座に’the government’ とされた。 確かに「お国」の中核は政府なのだろうが、この日本語にまとわりつく語感は、何とも得体のしれないジメッとしたものである。 単純に一つ、二つの単語で代替できるようなものではなかろう。 そして極め付けは「忖度」だ。 広辞苑によると「他人の心中をおしはかること。推察。」とのことだが、もう少し書き加えるとすれば「頼まれるに先んじて、自ら空気を読み、上の立場の者に媚びへつらった態度や行動にでること」くらいの感じであろうか。 この「忖度」が、日本外国特派員協会での記者会見でどのように英訳されたかは、The Huffington Post紙の記事に詳しい。 私がストリーミングで聴いた時には ‘between the lines’ と訳されていたが、「行間を読む」では「阿り」「媚びへつらい」の感触が出ない。 そもそも「忖度」なんて事態が英語圏では考えられない故に、英訳が極めて困難なのである。 もはやSushiやTenpura同様に、Sontakuを英語化するしかないのではないか。 ところで森友学園の件からは離れるが、英語から日本語への翻訳も一筋縄にはいかない場合がある。 2006年に制作された映画「ナイトミュージアム」を観ていた時に気が付いたのだが、主人公の警備員ラリーの「南部にはオールマン・ブラザースがいるじゃないか」というセリフが、日本語の字幕では「南部には素晴らしいバンドがいるじゃないか」と表記されていたのである。 オールマン・ブラザースと言えば70年代に人気を博したバンドだが、2006年時点の日本で翻訳の仕事をされた方が、オールマン・ブラザースを知っていたかどうかは分からない。 ご存知なくて調べた結果、「素晴らしいバンド」と意訳したのかもしれない。 あるいは直訳しても日本の観客には何のことだか通じないからという深い配慮の故かもしれない。 いずれにせよ英語のヒアリング能力というより、米国では当たり前に通じるネタに反応できるかという話である。 そして映画やテレビの英語はこんなものが満載だ。 森友の件からかなり脱線してしまったが、結局のところ日本語の英訳も、英語の和訳も、単純な言葉の置き換えでは済まないということだ。 言葉が元々持つ意味や文化的背景を理解したうえで一旦解体し、瞬時に他国語へ再構築する作業が必要になる。 よくある外国語を「聞き流すだけで聞き取れるようになる」なんてことはあり得ない。
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