Photo by Damian Zaleski on Unsplash 1、2年ほど前にデジタル・マーケティング業界で盛んに喧伝されていた「マーケティング・オートメーション」や「コンテンツ・マーケティング」なるバズワードを最近すっかり目にすることがなくなってしまった。 マーケティング・オートメーションについては、数年にわたってB2B用途のツールを使っていた経験があるので、いま改めて振り返ってみたい。 まずB2Bでのマーケティング・オートメーションで最初に試行されるもの、あるいは最も典型的なものは、セミナーの案内であろう。 ここでは既存顧客にセミナーの案内メールを送信し、さらに一回目のメールを未開封の場合に絞って二通目を送信するケースを想定してみる。 ここで最初の壁となるのがメールの形式だ。
メールの開封の有無を取得するためには、テキストメールではなくHTMLメールである必要がある。 技術的な話としては当たり前だからなのか、あるいは他に意図があってなのか判らないが、「マーケティング・オートメーションではHTMLメールが前提」ということが、ベンダーからもメディアでもなぜか余り聞こえてこない。 一方、ビジネスの現場でのHTMLメールの利用状況はどうなのか。 折しもこの6月2日、一般社団法人日本ビジネスメール協会が「ビジネスメール実態調査2017」を発表した。 この資料によると、仕事での送受信に使用しているメールの形式は「テキスト形式」が68.27%になっている。 また「HTML形式・リッチテキスト形式」を利用しているユーザーの中には、その装飾性に批判的な人もいると考えられる。 当たり前であるが、ビジネスの現場でイメージをべたべた張ったメールを送られても迷惑なだけだし、イメージに仕込まれたリンクはフィッシングの可能性もあるので、クリックは躊躇されるであろう。 送り手側の裏技としては、イメージを一切使わず、テキストのみのコンテンツに留めたHTMLメールを作るという手もあるが、これもメーラーによってはブロックされてしまう。 そもそもB2BでHTMLメールを前提にすること自体、現場のメール利用の実態との乖離があるのだ。 こうなると、先の例では二通目の送信の判断すらできなくなる。 またHTMLメールを作るにしても、その手間も考慮しておくべきである。 某マーケティング・オートメーション製品で、HTMLメールを簡易に作成するためのリッチ・エディターを備えておらず、スクラッチでHTMLのコードを作らなければならないものがあった。 いまどき無料のブログでさえ備えている機能だが、これもこの業界の実態のひとつである。 当たり前の機能が無いとか驚くべき事態だが、製品選定にあたっては十分注意していただきたい。 また、メールから誘導したWebでの個々のアクティビティを取得するためには、リンクをパラメータ付URLで記述する必要がある。 しかしパラメータ付URLの複雑な書き方に習熟することが、マーケティング部門の仕事なのか? 先のHTMLメールの作成と併せて、疑問に思わざるを得ない。 さてマーケティング・オートメーションの本来的な意義は、このような単純なメール配信だけでなく、リードがホットになった時点で営業へ引き渡すためのリード・ナーチャリングを行うという点にある。 しかしリード・ナーチャリングもまた、ベースとなるスコアリングが一筋縄にはいかない。 例えば、スコアリングとしてWebアクセスに2ポイント、資料請求に10ポイントを設定するケースを考えてみよう。 この場合、Webアクセスを5回行ったユーザーは、2ポイントx5で10ポイントとなるが、これを資料請求の10ポイントと同等に扱っていいのだろうか。 このようにスコアリングの設定は非常に厄介であり、明確な正答は得にくい。むしろWebアクセスに何ポイントを付与するかというような不毛な議論を続けたり(もしくはAIや機械学習まで持ち出したり)するよりも、ひとこと「資料請求のあったユーザーは営業がフォローする」と言い切ってしまったほうがよほどすっきりする。 数百万件から数億件のデータを扱うB2Cでの自動化の必要性と比べ、せいぜい数万件程度のB2Bのリストであれば、高額なマーケティング・オートメーション・ツールを導入するまでもなく、安価なメール一斉配信サービスでも十分対応可能な場合が多いのではないか。 またシステム化よりも、「過去に売ってくれたパートナーからこの2年間は実績がない営業を抽出し、自社の担当者の実名で新製品説明依頼のメールを出す」といった、アナログな手段のほうが何倍も効果的となる可能性もある。 マーケティング・オートメーションの導入にあたっては様々な落とし穴があるので、製品やサービスの価格のみならず、習熟に要する手間や代替可能性も含めて十分な費用対効果の検証を行っていただきたい。
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