久保田直己 不撤不散
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ポピュリズムとしての維新の危険性

25/6/2023

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Photo by Marija Zaric on Unsplash
近年、先進諸国で、ポピュリズムと呼ばれる政党や運動が大きく伸張しており、日本もまた例外ではない。
水島治郎の「ポピュリズムとは何か」によれば、ポピュリズムには二つの定義が与えられている。
  • 第一の定義は、固定的な支持基盤を超えて、民衆に幅広く直接訴えかける政治スタイルである。
  • 第二の定義は、政治変革を目指すという名目で既成の政治やエリートを批判する政治運動である。

​そして水島は、ポピュリズムの特徴を次のように四点挙げている。
  • 第一の特徴は、政治エリート、メディア、高学歴層などの「特権層」に対する「普通の人々」のルサンチマンを代弁する手法をとることである。このような主張は同質的な集団を形成し、外国人や民族的・宗教的もしくは性的マイノリティに対する排外主義へ容易に転換する。
  • 第二の特徴は、政治的・経済的のみならず社会的・文化的にもひと握りの人々が支配を固めているとするプロパガンダである。
  • 第三の特徴は、いわゆる「カリスマ的リーダー」の存在と、彼らによる明確で端的な言語表現である。
  • 第四の特徴は、イデオロギーとしての薄さが挙げられる。

ポピュリズムは必ずしもデモクラシーと対立的な関係にあるものではなく、ポピュリズムの主張の多くは、デモクラシーの原理原則から派生しており、むしろデモクラシーの理念と重なり合う面が多い。
デモクラシーを立憲主義的に解釈すると、法の支配、個人的自由の尊重、議会制を通じた権力抑制などを重視することになる。
一方、ポピュリズムの立場からデモクラシーを解釈すると、統治者と被治者の一致、直接民主主義の導入など、民衆の意思に重点が置かれる。
さらにポピュリズムとデモクラシーの関係を分析すると、ポピュリズムにはデモクラシーの発展を促進する面と、阻害する面が存在することが明らかになる。
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デモクラシーの発展を促進する面としては、三点考えられる。
  1. 政治から排除されてきた集団の政治参加の促進が考えられる。
  2. 社会的な壁を越えた、新たなイデオロギーを提供する可能性がある。
  3. 対立的な側面を呼び起こすとこで、政治の活性化が可能になる。

他方、ポピュリズムは、デモクラシーの発展を阻害する面も持つ。
  1. 民衆の意思を重視する一方、権力の分立や抑制など立憲主義の原則を軽視する。
  2. 敵と味方の峻別により、対立や紛争を先鋭化させ、深刻な分断を生み出す。
  3. 投票によって一挙に決することを重視するあまり、熟議による統治を破壊する危険がある。

21世紀の我が国におけるポピュリズムの具体的な事象・現象としては、地域政党「大阪維新の会」を母体とする政党「日本維新の会」(以下「維新」)が挙げられる。
維新による政治の第一の特徴は、明確で端的な言葉を使って敵と味方を峻別し、民衆の情念に訴えて対立を先鋭化させる手法に長けていることである。
例えば、橋下徹が2008年に大阪府知事選に出馬した際、「机を蹴り飛ばす勢いで府庁を変える」と発言するなど、役所や公務員をスケープゴートに設定し、公然と敵に回す態度を取り続けた。
「敵の認定」は、社会的エリートにも向けられた。
例えば、維新が提唱した「大阪都構想」を批判した大学教授らを、橋下は「バカ学者の典型」「抜群に地頭が悪い」「この小チンピラ」と罵倒した。
「敵の認定」は、しばしばマイノリティに対するヘイト扇動にまで突き抜ける。
その極端な例は、維新の衆議院予定候補だった長谷川豊による「自業自得の腎臓透析患者なんて、全員実費負担にさせよ。無理だと泣くならそのまま殺せ」という発言である。
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第二の特徴は、メディアに対する恫喝と取り込みである。
橋下は知事就任当初から、批判的なメディアの記者を実名で吊し上げ、執拗に攻撃を続けた。
例えば、維新の政策に批判的な質問した毎日放送の女性記者に対し、「勉強不足」「そんな事も知らずに取材に来るな」と感情をむき出しにして攻撃した。
NHK、朝日新聞、毎日新聞などに対しても同様の攻撃が加えられている。
その結果、在阪メディアは委縮し、維新に対する批判をほとんど行わなくなってしまった。

第三の特徴は、住民投票へのこだわりである。
住民投票は、熟議を根幹とする議会制民主主義を補完する制度としての意義を否定することはできない。
そして、住民の直接請求に基づく首長や議員の解職は、住民の権利の正当な行使である。
一方、維新が二回にわたって住民投票を推し進めた「大阪都構想」の内容は、2015年2月の「特別区設置協定書」によると、①大阪市の現行24区を廃止し新たに5特別区を設置、②府と市で重なっていた「二重行政」の解消、③これによる新たな財源の創出、といったものだった。
しかし議論の段階でも、区割りの妥当性、「無駄な二重行政」は本当に存在するのか、財源の根拠が不確かで甘すぎるのではないか、といった指摘がなされていた。
このような複雑な利害関係やテクニカルな諸問題は、府議会、市議会、法定協議会で熟議に熟議を重ねて検討されるべきであり、単純に投票で決着をつけるような性質のものではない。

以上のように、維新による政治をポピュリズムの一形態として検討すると、デモクラシーの発展を促進する面としては、「大阪都構想」の欺瞞に気が付いた市民が中核となり、自民党から共産党まで既存の政党が緊張感をもって「反維新」の統一戦線を一時的にせよ生み出したことが挙げられよう。
(もっともこの統一戦線は公明党の裏切りによって瓦解してしまった。)
その他には、デモクラシーの発展を促進する面はほとんど見当たらない。

逆に分断や差別を先鋭化させ、統治機構を破壊して、人心を荒廃させるような、デモクラシーを阻害する弊害ばかりが際立っている。
​維新は、ファシズムへ突き進む危険性を孕んでいる、警戒すべき集団と看做すべきであろう。

参考文献・引用文献
・水島治郎『ポピュリズムとは何か』(中央公論新社、2016年)3~28頁
・松本創『誰が「橋下徹」をつくったか』(140B、2015年)18~19、199~202頁
・富田宏治『維新政治の本質』(あけび書房、2022年)90頁、112~113頁
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