久保田直己 不撤不散
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旧公害対策基本法から環境基本法への発展 ~ 国は環境基本法の理念に立ち返れ

16/4/2023

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Photo by Matthew Smithon Unsplash
戦後復興に伴う重工業中心の急速な経済発展の結果、大気汚染、水質汚濁、地盤沈下などの環境負荷の増大とその影響を受ける住民の増加が相乗効果を生み、健康・財産被害が大きな社会問題となっていった。
熊本水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜん息という「日本4大公害事件」の被害も、深刻の度を増していた。こうした状況に対し、1958年にいわゆる水質二法(水質保全法、工場排水規制法)が制定され、1962年にはばい煙規制法と地下水採取規制法が制定された。個別法による対応はそれなりに進められてはいたが、公害の未然防止の必要性が強調されるとともに、発生源規制、土地利用規制、公害防止公共施設の整備、科学技術振興などの施策を総合的かつ計画的に推進する枠組的法律の必要性が議論されるようになった。
公害対策基本法は、こうした背景のもとに、1967年に制定された。

新たな基幹法の必要性が議論されるのは、1990年代になってからである。
この時期の環境問題は、それ以前と異なってきた。
第一に、地球規模の環境問題の発生である。オゾン層破壊、酸性雨、地球温暖化、廃棄物の越境移動、野生動植物の違法取引などに関して国際条約が締結され、その国内法対応が求められていた。
第二に、国内的に廃棄物が大きな環境負荷と認識され、リサイクルや省エネルギーの必要性も強く意識されるようになってきた。
第三に、環境影響に関する因果関係についての科学的知見が必ずしも十分ではない物質や活動を制御する必要性が認識されるようになってきた。このような背景を踏まえて、環境基本法が1993年11月に制定された。

環境行政に新たな基幹法が必要とされた理由は、1992年10月の中央公害対策審議会ならびに自然環境保全審議会の答申『環境基本法制のあり方について』において、詳しく述べられている。その内容は、次の通りである。

現在の環境問題は、地球規模という空間的広がりと将来世代への影響という時間的広がりを持っている。
人類の生存基盤たる有限の環境資源を保全し、これを次世代に引き継ぐことは、人類共通の課題である。これまで、1970年の公害国会などにおける法令整備の結果、環境汚染や自然破壊に対して、環境政策は相当程度の効果をあげてきた。
しかし、現在では、都市・生活型公害などの新たな課題が発生し、地球規模の環境問題も深刻さを増している。
こうした状況に的確に対応し、環境の恵沢を現在および将来の国民が享受するためには、従来のような問題対処型・規制的手法中心の法的枠組みでは不十分であり、社会全体を環境負荷の少ない持続的発展が可能なように変える必要がある。
そのために、環境保全に関する種々の施策を総合的・計画的に推進する法的枠組みを含む基本法を制定し、国、自治体、事業者、国民が共通の認識に立って、公平な役割分担を踏まえつつ、それぞれの立場から問題に対処する必要がある。

公害対策基本法と比較しての環境基本法の特徴は、基本理念規定の充実である。
公害対策基本法の目的規定では、「公害の防止」が前面に出ていた。
環境基本法では、3~5条が「基本理念」とされ、国はそれに則って、環境保全に関する基本的かつ総合的な政策を策定・実施する責務を有する(6条)。
3条では、環境の保全の目的を、「環境の恵沢の享受と継承」として明記している。
そして4条では、3条が規定する環境の有限性を踏まえて、現代環境法の究極目的が、「環境への負荷が少ない持続的発展が可能な社会の構築」であることを明らかにしている。
5条では、「国際的協調による地球環境保全の積極的推進を、基本理念のひとつ」としてあげている。

「公害」の定義に関して、環境基本法2条3項は「環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることをいう。」と定義する。
これは、公害対策基本法2条1項の内容を受け継いだものだからである。

放射性物質による大気汚染と水質汚濁の防止については、1955年に制定されていた原子力基本法にもとづく法体系に委ねて、公害対策基本法のもとでの施策の対象外とされていた。
この整理は環境基本法にも継承されたが、2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所爆発による大量の放射性物質の放出事件を契機にして、環境基本法13条の「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置については、原子力基本法その他の関係法律で定めるところによる。」との規定が、2012年に削除された。
その結果、放射性物質による汚染が規制対象となった。

公害対策基本法では、公害防止計画の策定を規定し、地域を特定して、国の主導のもとにその産業構造や地理的状況に応じた対策を総合的・計画的に講ずるようにした。
しかし、計画的対応は、公害防止計画という手法に関してのみにとどまっている。
公害防止計画は、公害対策基本法から環境基本法へ引き継がれたが、環境法における総合的・計画的な施策推進の中心的手段として、環境基本計画が加えられた。環境基本法13条は、政府に対して環境基本計画の策定を命じている。環境基本計画は、公害防止計画と異なり、適用対象区域を限定しない全国計画である。
公害防止計画は公害対策中心であるが、環境基本計画はそれを含みさらに自然環境、人工環境(都市環境、歴史的文化的環境)、地球環境などにも対象を広げている。通時間的・政策横断的である。

以上のように、公害対策基本法は「公害の防止」が前面に出ていたが、環境基本法では、環境の保全のための配慮に軸足を移したと考えられる。
東京五輪や辺野古基地建設、明治神宮外苑再開発などを強行する国や都は、今一度、環境基本法の基本理念に立ち返るべきではないか。

本稿は、中央大学法学部通教課程「環境法」でのレポートを元に加筆したものです。

参考文献・引用文献
・北村喜宣『環境法(第5版)』(弘文堂、2020年)273~289頁
・小賀野晶一『基本講義 環境問題・環境法(第2版)』(成文堂、2021年)105~117頁
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