久保田直己 不撤不散
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ヨーロッパにおける極右の動向

21/2/2021

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Photo by Christian Lue on Unsplash
反ファシズム・キャンペーンのために2004年にイギリスで設立された HOPE not hate Ltd が、ヨーロッパにおける極右の動向を調査したレポート "State of Hate: Far-Right Extremism in Europe" を公開した。
ヨーロッパ大陸全体に及ぶ極右の動向を知ることは、日本でのファシズム進行を食い止めるための方策を練るうえでも参考になるであろう。
レポートは豊富なデータと図表から成るものだが、128ページもの分量があるため、このうち "Executive Summary" の部分の翻訳を以下のように試みた。
なお、総ての著作権は HOPE not hate Ltd が所持しており、また誤訳の責任は訳者にあることを申し上げておきたい。
またレポートの原文にもぜひ当たっていただければと思う。

2020年の主な極右事件
  • ドイツでのテロ攻撃​
2月、ドイツのハーナウで極右テロリストによる銃乱射事件が発生し、主に移民のバックグラウンドを持つ人々が訪れる2つのシーシャ・バーへの攻撃で10人の命が奪われた。
2019年10月のハレのシナゴーグとケバブ・ショップに対する攻撃に続く、半年足らずの間のドイツでの2番目の極右殺人テロ攻撃だった。
さらに2020年6月、ドイツ国防相は、エリートとされる陸軍特殊作戦コマンドの下士官の中に極右がいるとの批判が高まる中、その組織の一部に解体を命じた。

  • ポーランド大統領選挙での極右の勝利
7月、極右「法と正義党」の Andrzej Duda が、ポーランド大統領選挙で対立候補の Rafal Trzaskowki を僅差で打ち負かした。
これは醜悪な反LGBTキャンペーンがもたらした結果であり、異論の多い司法改悪と、ゲイの権利や中絶の権利に対する更なる反動を意味する。

  • クライストチャーチ射殺犯とヨーロッパ極右の多方面にわたる関連が明らかに
8月、クライストチャーチの殺人犯 Brenton Tarrant は、92件のテロ、殺人および殺人未遂で有罪となり、仮釈放の可能性がない終身刑を宣告された。
この攻撃を担当する王立委員会が12月に発表したところによると、この殺人犯は2017年以降、国際的な極右グループや人物達に少なくとも16もの寄付を行ったことが判明した。
これには、アイデンティタリアン運動 Generation Identity の多数のヨーロッパ支部への合計2,500ポンドの寄付が含まれる。

  • ギリシャでの「黄金の夜明け」の裁判
10月、5年以上続いた裁判の結果、ギリシャのネオナチ党「黄金の夜明け」の指導者が、犯罪組織を運営した罪で有罪判決を受けた。
「黄金の夜明け」のリーダーである Nikos Michaloliakos と6人の幹部は、犯罪組織を率いたことで有罪判決を受け、 Giorgos Roupakias は殺人罪で有罪となり、また他の15人が共謀で有罪判決を受けた。
ギリシャでの極右暴力の脅威は残っているものの、この裁判はヨーロッパで最も危険なネオナチ組織の1つを破壊したことになる。

  • イタリアの Matteo Salvini の法的な問題
10月、極右のレガ党の元内務大臣 Matteo Salvini は、116人の移民がシチリア島で下船するのを阻止した2019年の事件に関して、誘拐罪で裁判にかけられた。
彼が有罪判決を受けた場合、通常よりも重い誘拐罪で、最大15年の刑に直面する可能性がある。

2020年の主なトレンド 
  • Covid-19蔓延を通じて陰謀論に嵌る人々の数が劇的に増加した。
  •  ヨーロッパ全土で、強力な反エリート、反ロックダウン、反ワクチンの課題に駆り立てられた、陰謀論に基づく多くの抗議グループが街頭に現れるのを目撃した。
  •  陰謀論の拡散に対する責任の一部はデジタル・プラットフォームとソーシャル・メディアにあり、あらゆる種類の虚偽情報が、より速くより攻撃的に拡散するのを助けてきた。 
  • Covid-19に関連する陰謀論は、反ユダヤ主義の策略へ連なる、憂慮すべき新たなルートを与えてしまった。オンライン・スペースは、反ロックダウンや、パンデミックに対する陰謀論を推し進めるために使用され、さまざまな経路を提供した。反ユダヤ主義、ホロコースト否定、ヒトラー賞賛に向けて徐々に悪化する段階が構築され、実際、さまざまな陰謀論を通じて進行している。こうした陰謀論は潜在的な反ユダヤ主義の場合もあるが、必然的にこの段階を踏むことになる。
  • Qアノンの陰謀論がアメリカで始まったのは2017年だが、2020年にはヨーロッパ全体、特にイギリスとドイツで登場し拡大した。党派に関係なくアメリカ中心主義だった理論のルーツを超えて、明らかにヨーロッパでの変化を伴い、幅広く多様なタイプの現象に発展した。今日のヨーロッパでのQアノンは、中核を持たない巨大で多面的な現象であり、陰謀論と政治運動と擬似宗教が同時に混在し、さまざまなサブカルチャーや国の状況に合致するように変化した亜種になっている。

「人種的ナショナリズム」の上昇 
  • 2020年、ヨーロッパ全体で行われたBLMのデモに応じて、ヨーロッパの極右は非常に活気づいた。
  • すでに人種の概念に熱中していた既存の人種的ナショナリストの活動家や組織は、自分たちの既存の政治的基盤をより多くの聴衆に押し付けるために、BLMの抗議を窃用した。
  • 人種的政治を公言することから伝統的に距離を置き、代わりに「文化的ナショナリズム」を促進してきた極右の一部は、BLMの抗議に乗じて、露骨な人種的政治に対して積極的になり、その態度を隠さなくなった。この変化が永続的であるかどうかはまだ分からないが、短中期的には、ヨーロッパの極右の一部で「文化的ナショナリズム」の「人種的ナショナリズム」への転換が観察された。 

脅威を提起し続ける極右テロ 
  • 2020年の極右テロは、2019年の憂慮すべき傾向をほぼ継承した。その結果、多くの逮捕を招いた。一方でテロと暴力を拡散する活発なオンライン・シーンに支えられている。
  • 現在の極右のテロの脅威は、個人を国際的につなぎ、緩く組織化されたグループで構成されている。これらのグループの主な目的は、攻撃をあからさまに計画するのではなく、個人が暴力行為を継続し、ネットワークを構築して、知識を共有するように奨励することである。多くの場合、こうしたグループは過去のグループをモデルにしており、短命である。 
  • 極右活動家はしばしば複数のグループに同時に関与し、グループの1つが解体された場合にも、新たに関わるネットワークを見つけることがある。これは、個々のグループを粉砕してもその影響がほとんど継続しないため、脅威に対抗するのが難しいことを意味している。 
  • 陰謀論の信念によって部分的に動機付けられたテロリズムと、エコファシズムと呼ばれることもある環境保護主義は、比較的新しい傾向であり、これらのテーマに関連する攻撃が発生する可能性は依然として深刻である。 

継続的な国際化
  • 極右政党など従来の極右組織の傾向を調査することは引き続き重要だが、現在の極右は、より広くより根本的な変化を遂げている。つまり、国境を越え、組織にとらわれない脅威の出現である。
  • 極右活動家は主に自分たちの地方や国の問題について熱中する一方、常に全ヨーロッパあるいは世界的な文脈でとらえている。しばしば世界中の極右活動家が短期間集まって特定の問題について協力する。こうした緩いネットワークは、世界中に情報を流通させるシナプスとして機能する。
  •  憎しみと分裂の政治によってもたらされる危険性を理解するためには、もはや自分たちの街路、コミュニティ、さらには自国を見ることですら事足りない。政党、正式な組織、さらには国境を越えた思考が必要である。 

投票に関する主な項目
  • 極右は2020年の間、政治的にさまざまな運命をたどり、政府内部での支持は急激に低下する一方、Covid-19やその他の問題に関する政府の不人気ぶりを悪用している連中は、強い支持を得ている。イタリアでは、ファシスト「イタリアの同胞」への投票が12%で、2018年の総選挙で得た票の2倍になった。スウェーデンでの有権者の関心は「犯罪」が「健康」を上回っており、さらに「移民」が3番目となっている。極右のスウェーデン民主党は、2018年の選挙で獲得した16%と比較して、現在は21%になっている。
  •  しかし、政府内の極右政党は、パンデミックの最中にひどく苦しんでもいる。ポーランドの「法と正義党」は、2019年の総選挙で達成した32%と比較して、現在は18.4%の投票率である。さらに従来の極右よりもポピュリストである「五つ星運動」は、支持率が2018年の28%から現在はたった12%に落ちている。 
  • ほとんどの人々が自国で実施されているロックダウンの措置を支持しており、ドイツでは64%が政府措置を支持し、反対はわずか13%である。 
  • 多くの国が、政治体制の状況と自国の方向性に対する深い不安感に満ちている。フランスでは3分の2の人々が自国の政治体制が壊れていると考えており、イギリスではわずか6%だけが「上手く機能している」と考えているにすぎない。 しかし、他の国々では民主主義の状況に前向きな感情があり、ドイツ人の60%が「上手く機能している」と考えている。 
  • 調査対象の8か国すべてでマイノリティに対する態度は貧弱で、吐き気を催すような国もある。イタリア人の3分の2(67%)がロマに対して否定的な見方をしており、ハンガリー人の60%は移民に対して否定的な見方をしている。イギリス人の間にはマイノリティに対する最も前向きな態度が存在しているが、イスラム教徒に対する前向きな態度は29%で、依然として憂鬱なほど低い。
  • マイノリティに対する態度は貧弱であるが、BLMの抗議がマイノリティ・コミュニティが経験しているレイシズムや差別を浮き彫りにしたと感じる人は増えている。しかしこの感情は、ドイツ(52%)とイギリス(51%)でのみマジョリティによって共有されているにすぎない。ハンガリーではわずか23%だった。 
  • 陰謀論に対する態度は国によって大きく異なり、多くの場合、問題が既存の懸念や偏見を利用しているかどうかに依存している。ハンガリーでは、オルバーン大統領がEUの介入に反対し、また移民がヨーロッパのアイデンティティにもたらす危険性に反対しており、45%が「エリートはヨーロッパを弱体化させるために移民を奨励している」と考えている。イタリアでも、EUが移民問題について手を差し伸べないことに対する政治的な怒りがあり、39%がハンガリーと同様の考えを抱いている。
  • 8か国すべての回答者の大多数は、「Covid-19ワクチンが悪意を持って人々を毒に感染させるために使用される」という考えを否定している。しかし、ポーランド人の22%、ハンガリー人の20%、イタリア人の16%は、これが事実であると信じている。ポーランドでは48%だけが、この主張が「おそらく」または「間違いなく」誤っていると信じているにすぎない。イギリスでは、「Covid-19ワクチンを介して毒に感染する」と考えている人はわずか7%であり、79%が否定している。
  • 「ハリウッドのエリート、政府、メディア、その他の高官が大規模な子供の密輸と搾取にひそかに関与している」というQアノン信者の主要な主張の1つは、はるかに大きく支持されている。ポーランドの回答者の3分の1は、この主張が間違いではなく、あるいはおそらく真実であると信じており、誤りだと考えている人はわずか27%である。ドイツでは、21%がこの主張は正しいと信じているのに対し、48%は間違っていると考えている。 
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