久保田直己 不撤不散
  • Home
  • Blog
  • Music
  • Politics
  • About

転職の翌日に転職活動開始

16/4/2017

0 コメント

 
Picture
Photo by Sarah Vilardo on Unsplash

​外資系での勤務を続けていると、一度や二度どころか、5回くらい転職経験があっても別に珍しい話ではない。
それでもさすがに私のように二桁の大台に乗っている人はそうそういないだろう。
これだけ転職の回数があると、あれこれ様々な出来事に出くわす。
また在職期間も、最長で11年、最短では2か月と様々である。
長期に働かせていただいた所はやはり居心地が良かったし、短い場合は短い理由がある。
特に最短2か月のケースは、入社した瞬間に「ヤバい」と気づいてしまった。
数多い転職の中でも滅多にない経験だったので、記憶が薄れる前に記録しておきたいと思う。
なおこの会社は現在、登記上は残っているものの既に実体はなく、またネットでの検索で私との関係は一切現れないことを確認している旨、予めおことわりしておく。
 
既に何回かの転職を経験していた私は、前職で酷いパワハラに悩んでいた。
このパワハラの内容を露わにすると社名が簡単に特定できてしまうくらいIT業界内では有名な話なので、これ以上の詳細は別の機会に譲ることにする。
そんなわけで、また何回目かの転職をすることになった。
実はこの時、転職先の企業からは1年ほど声を掛けられていた。
社長や会長を含む経営陣にも何度か会っていたし、仲介してくれていたヘッドハンターからのコンタクトも続いていた。
オファーのあった転職の条件は二択だった。
一つ目は前職の給与と同等だがストックオプションは無い、二つ目は給与が若干下がるがストックオプションを付与するというものである。
ここで欲をかいたのが全ての間違いの始まりだった。
この企業は設立してまだ間もない所謂スタートアップで、未上場だった。
某ミドルウェアに欠けていた機能の追加でデファクト・スタンダードを狙っていた。
ヘッドハンターからは「今すごい勢いで売上があがっているからストックオプションを貰うのがいいよ」と聞かされていた。
また経営陣やインベスターの話も勢いがあるように感じていた。
しかし未上場であるため詳細な財務状況のデータは公表されていなかったし、私自身もそれを求めることを怠ってしまった。
はっきり言って我ながらバカである。
そして給与は下がってもストックオプションを貰うという選択をした。
 
出社初日、どうも社内の様子がおかしい。
30名ほどの社員の殆どがエンジニアで、営業は3人、マーケティングは社長が兼務していた。
どう見ても歪な構成である。
まず初日のオリエンテーションで業績の話になり、衝撃を受けた。
売上の本当の数字。
月額でわずか数百万円しかない。
しかもパイプラインも殆ど無い。
は?
すごい勢いで売上があがっているって話ではなかったのか?
この会社は大丈夫なのか?
確認の計算は簡単だ。
資本金に売上を足した金額を、家賃や給与などの固定費の想定額で割るだけでいい。
売上がまったくあがっていないのに社員が30名。
あと半年で資金が完全にショートする。
そもそもこんな事態に陥ったのは、目先の営業に製品戦略が振り回された結果だった。
某ミドルウェアのプラットフォームが複数あり、営業は別々のプラットフォームの案件へすべて対応していた。
そのためエンジニアのリソースは分散し、製品として最低限必要な共通機能の開発が進まない。
その結果、さらに売れなくなるという悪循環。
この時点で特定のプラットフォームに集中すれば打開できる可能性はまだあったと思う。
しかし経営陣はまったく聞く耳を持たなかった。
さらに驚いたのは、株主構成のデータを見た時だ。
件のヘッドハンターは大株主の一人だった。
この財務状況を知り抜いていながら「今すごい勢いで売上があがっている」と言っていたのだ。
やられた。
直ちに脱出するしかない。
こうして転職と同時に、また転職活動を開始するはめになってしまった。
 
しかしなぜこんな状況の中で、このヘッドハンターは私をここへ送り込もうとしたのだろう。
ヘッドハンティング業界の慣例では、紹介した転職者の勤務が半年以上続けば、その年収の三割くらいが企業から支払われる仕組みになっている。
たとえ傾いている企業でも、数百万円は懐に入ると踏んだのだろう。
即刻呼び出して事情の説明を求めた。
「昼休みにちょっと体育館の裏までこい」というような気分である。
彼は全ての経営状況を知った上で紹介したことを認め、謝罪をしたものの、もはやそれでどうにかなる話ではない。
 
幸い、付き合いの長かった他のヘッドハンターからの紹介があり、何とか時間を空けずに次の職を見つけることはできた。
しかしこの経験で、転職側と経営戦略の両方の視点から大いに反省をすることになった。
転職側としては、欲に目がくらんではいけないということだ。
未上場のストックオプションなんて、上場しなければ鼻紙にもならない。
事前に財務状況くらい調べておくのは、転職にあたっての最低限のプロセスである。
またIT系の企業戦略として得た教訓は、リソースを分散させないこと、そして特定の他社の技術や製品に依存した製品戦略にしてはいけないことである。
この企業の場合、資金のショートもさることながら、さらに致命的だったのは某ミドルウェア・ベンダー自身がその欠けている機能開発に乗り出したことである。
これで完全にトドメを刺された。
私が予測した半年は何とか持ちこたえ、一年近くは生き延びたようであったが、結局事実上の操業停止状態になってしまった。
 
世の中に美味しい話はない。
​当たり前だが、そういう事だった。
0 コメント



返信を残す

    Categories

    すべて
    Business
    Law
    Music
    Social

    RSSフィード

不撤不散
HOME        BLOG        MUSIC        POLITICS        ABOUT
All copy right reserved.  Since March 18 2017.
  • Home
  • Blog
  • Music
  • Politics
  • About