Photo by Thomas Kvistholt on Unsplash 昨今のクラウド・サービスの動向について調査する必要があったため、いろいろな資料を検索している間に、自分自身で作ったプレゼンテーション資料がネット上の残骸として存在していることを発見した。 表紙は2001年5月の日付になっている。 サン・マイクロシステムズ(以下、サン)に勤務していたころに、業界団体「iDCイニシアティブ」のプロモーションの一環として作成したものだ。 「iDCイニシアティブ」とは、2001年10月に設立されたインターネット・データセンターの事業推進団体である。 当時ASCII.jpに掲載された記事「ついに動き始めた国内インターネットデータセンター」にその詳細が残されている。 サン、オラクル、シスコシステムズが中心となって、ハードウェアやソフトウェアのベンダーからデータセンター事業者自身、果てはゼネコンまでおよそ140社がこの団体に集まった。 私自身、「iDCイニシアティブ」の立ち上げに奔走した張本人の一人であり、今回発見した資料や様々なプロモーション活動で言質を流した責任があるので、16年経過した今、資料の内容を検証してみたい。
そして14年後にあたる2015年の市場規模は実に1兆7,585億円に達している(富士キメラ総研調査)。ITの世界で10年以上先の出来事を予測するなんて不可能なことであるが、「ITインフラは自前で持つものでなくなる」という見通しは完全に正しかった。
当時はまだ「クラウド・コンピューティング」なる言葉も無かったころである。 ちなみに「クラウド・コンピューティング」との言葉は、2006年にGoogleのCEOだったエリック・シュミットが初めて使ったとされており、それに5年も先んじていたことになる。 現在、クラウド・コンピューティングは、主にIaaS (Infrastracture as a Service)、PaaS (Platform as a Service)、SaaS (Software as a Service) に分類される。
この階層モデルの図では、Global Carrier / Local Carrier からHardware VendorまでがIaaS、SI / ISVのうちOSやミドルウェア・ベンダーまでがPaaS、ISVの中でアプリケーション・ベンダーまでがSaaSに相当すると思われる。
現在は個人のレベルでも大容量の光回線を利用することが可能になったうえ、専用線に替わってVPNが安価に活用できるので、データセンター事業と関係なくほぼ解消された課題と言える。 むしろ並行して指摘していた「ピークアワー対応の無駄な投資を避ける」ためにデータセンターを利用することが有効だったのが、その後のAWSの躍進から裏付けられる。 また「信頼できる設備と契約」として列挙しているセキュリティや安定稼働、そのための様々な冗長化、そしてSLAなども完全に当たり前のものになってしまった。「柔軟な拡張性」も前述の通りである。 ところで思惑が大きく外れたのが、最後の「ビジネスモデルの展開」に関する考察だ。 ビジネス階層モデルで示したように、インターネット・データセンターには様々なプレイヤーが集まるため、その中から新たな繋がりが生まれビジネスモデルに発展すると考えていたが、実情はそんな生易しい規模のものではなかった。 またサーバ・ベンダーとしてのサンの思惑も、残念ながら外れてしまった。 当時の当事者として本音をぶちまけると、「インターネット・データセンターが普及すれば、サーバを大量に購入してくれる新たなチャネルができる」という点に尽きてしまう。 実際、iDCイニシアティブを立ち上げてから、サンのデータセンターに対するサーバ・ビジネスは好調だった。 しかしその後、データセンター事業者が選択したのは、高価なUNIXマシンではなく、安価でコモディティ化されたx86サーバと、無償で手に入るLAMP (Linux, Apache, MySQL, PHP/Perl/Python) だった。 残念ながらサンはここで出遅れてしまい、大きな投資をつぎ込んで築き上げた市場を失ってしまう。 さらにAmazonやGoogleのようなプラットフォーム業者は、自前で大量のサーバを開発・調達する体制を取るようになり、もはやサーバ・ベンダーにとっての市場ですらなくなってしまったのが現状だ。 16年前のインターネット・データセンターの市場動向に対する読みの95%は正しかったと自負している。 しかし5%外したために、結局今となっては何も手元に残らなかった。 ビジネスの結果は残酷だ。
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